香肌文庫 第108回 鍼灸院虎の巻
この度の移転に際し皆様には大変ご迷惑をおかけしております。多くの方にこれからも日常で鍼灸を利用していきたいという声をいただき鍼灸師とて嬉しく思います。今回は皆様が良い治療院に出会える一助になればと思いこの稿を書きました。ご参考にしてください。未熟者が偉そうな事を書いておりますがご容赦ください。
また、来院された方に同じ内容のものを配布させていただいております。重複して申し訳ございません。
鍼灸にも東西がある
まず鍼灸治療は大きく二つに分けることができます。一つは現代(西洋)医学的な鍼灸療法、もう一つは東洋医学的な鍼灸療法です。現代医学的な鍼灸は簡単に言えば患部に対する刺激療法です。ツボというよりは筋肉や神経を意識しています。刺した鍼に低周波を流したりもします。整形外科や接骨院などで行われている鍼灸の多くはこれにあたります。
一方本家である東洋医学的な鍼灸は患部を対象としません。滞った経絡(気の道)の流れを改善してあげることで症状を消そうとします。ですから経絡治療とも呼ばれます。「どこがつらいですか？」とは聞きますが、それはあくまでもどのツボを使って流れを調整するのかヒントを得るためです。
現代医学的な鍼灸＝病気が対象＝刺激療法
東洋医学的な鍼灸＝正気が対象＝調整療法
どちらを選ぶのかは自由です。当院と同じような鍼灸を希望するのでしたら東洋医学的な鍼灸を選択して下さい。私が常々思っていることは、日本特に関東などは内科や整形外科へ通ってみたが良くならない、検査しても「異常なし」だったという場合に初めて「鍼灸でも試してみるか」というのが一般的です。それなのにまた現代医学的鍼灸を受けるのはどうかと思います。現代医学で効果が無かったのなら、まったく異次元である東洋医学的鍼灸を試されてはどうでしょうか。それには鍼灸院、鍼灸専門の治療院に行かれるのが良いかと思います。中には鍼灸専門の治療院でも現代医学的な鍼灸を行っている場合がありますので事前に問い合わせてみて下さい。また最近ではエステやリラクゼーションサロンなどで美容や癒しの目的として鍼灸を取り入れている所もあるようです。体に苦痛はないがリラックスしたいという方には良いかもしれません。
鍼灸師は「My World」を持っている
そこで厄介なのは東洋医学的鍼灸も多様であり、施術者の個人技が著しく違うということです。病院の場合同じ病気ならどこへ行っても薬や治療に大差はありません。しかし鍼灸院はそうはいかないのです。ツボや経絡といった目には見えないものを対象にしているだけにその診断方法も色々です。脈診が代表的ですが、腹診や皮膚診など他の診察方法が得意な施術者もみえます。感性も人それぞれです。
例えば当院では鍼の本数も使うツボも少なく、刺入も浅くします。もちろんこれが効果的と感じているからです。ですから多くのツボへ鍼を打ったり、やり方の違う施術者に対して「そんなやり方で効くのか？」と思います。しかしそこへ多くの患者さんが通われていて、良くなったという方がいる以上、否定の余地がありません。結局正しい正しくないとかは患者さんが決めることで私が偉そうに論ずることではないのです。ですからこれはもう本人が施術者とよく相談し、実際に施術を受け、気持ちも体も納得する所を選ぶしかありません。
鍼灸は即効性がある
ここまで読んでくると結局「適当な所見つけて行って下さいね。さようなら」って感じですね。これでは皆さんに申し訳が立ちません。そこで最後に鍼灸の絶対的な特徴を紹介して、治療院選択の判断基準にしていただきたいと思います。
鍼灸が他の医療と違うところ、それは即効性があるということです。これは魔法のように即効で病気が治ってしまうということではありません。即効で効果が確認、実感できるということです。なぜ鍼灸に即効性がある
のかと言えば、それは「気の治療」だからです。「気」と聞くとなんだか胡散臭く感じるかもしれませんね。
しかし「気」は幻想的なものではありません。何かの現象が起こるには必ずそれに先立つ兆しが現れます。
例えば食べるという現象の前には「お腹すいたなあ」と感じます。排泄も「トイレに行きたい」という兆しの後に起こる現象です。この現象に先立って起きる兆しこそ「気」の動きなのです。
鍼灸は「気」を動かして現象につなげる治療ですから、一年通わなければ治らない病気でも治療が合って入ればそれに伴う兆しが早期のうちに表れます。気の動きは大変速いのです。体が軽くなった、痛みが少し和らいだ、顔色が良くなった、食欲が出てきた、気持ちが前向きになった…などです。
最初はよく分らなくても必ず早期のうちに何かしらの兆しが出るはずです。定期的に通っているがまったく何も感じないという場合は施術者に相談するべきです。それでも納得する答え、対応がないようでしたら他の治療院もしくは他の療法を考えるべきです。
兆しは治療を受ける前から現れることもあります。治療院に入ったらBGMが大好きな曲だった、診察券の色が自分のラッキー色だった、先生と誕生日が同じだったなどです。こういったシンクロの発生も見逃さないで下さい。
最後によくある質問を問答形式にしてみましたので合わせて参考にしてください。
Q現代医学的鍼灸はまったく意味のないものなのですか？
Aそんなことはありません。激しい競技をするアスリート達は現代医学的な鍼灸を受ける方が多いようです。
急激な負荷がかかるために起きる筋肉の症状に対しての鎮痛効果や疲労回復に効果があるようです。物理療法の一種と考えればよいかと思います。もちろん東洋医学的鍼灸でもこのような筋肉の症状には対応できます。
Q使用する鍼は使い捨てでなくても大丈夫なのですか？
A現代は感染ということに非常に敏感となり、鍼灸院でも利用者が安心できるようディスポーザブル(使い捨て鍼)を使用する所が多くなりました。しかし使い捨て鍼でなくても滅菌消毒をしていれば感染の心配はありません。現代の鍼灸院には滅菌消毒が義務付けられています。
Q治療院によって打ってくれる鍼の本数が違うのですが…
A多くの本数の鍼を打った方が効くと感じたことはありません。むしろ私はツボはなるべく数を絞って施術する方が効果的と感じています。しかし多くの鍼を打つ方が効果的と考えている先生がいるのも事実です。
ご自身で治療を受けてみて判断するしかありません。一つだけ言えることは、鍼の本数で施術料金の設定をしているような所はお薦めできません。
Q施術時間が治療院によってまちまちなのですが…
A前述したように鍼灸は治療院によって施術方法が異なるため施術時間に差が生じるのは当然です。鍼灸治療は簡単に言えば、体の凸凹が平になれば治療終了です。その時の体調により平になるまで手間がかかることもあれば簡単に整ってしまうこともあります。激しい症状などは影響力の強いツボに一か所だけ鍼を刺して終了することもあります。ですから同じ施術者にやってもらっていても日によって時間が違います。
マッサージは30分3000円、50分5000円などのコース設定があって当たり前ですが、鍼灸施術をこのようなコース設定にしている所があれば疑問に思います。
Q鍼灸の施術料金はもっと安くできないのですか？
A鍼灸の施術料金は安くて三千円代、平均四千～五千円代位の所が多くなっています。原則として保険が適用できません。また一人に要する時間もかかります。
最近では鍼灸を利用する人も増えてきましたが、まだまだ医療の中では一般的とは言えません。周囲を見ても
鍼灸施術の経験者はほとんどいないのではないでしょうか。このような実情の中で鍼灸を生業としてやっていくにはどうしてもこのような料金設定にせざるを得ません。料金の高低と質の良悪は比例していないと考えてよろしいかと思います。
Qなるべくベテランの施術者に受けたいのですが
A臨床経験豊富な施術者が上手いのは当たり前です。しかし長年やっている施術者が全て上手いわけではありません。適当に年月を費やされた方もいます。若い施術者でも素晴らしい感性の方がみえますし、研究熱心な方は一生懸命になってくれます。料理や車の運転と同じで、長年やっている方が上手いとは言い切れません。
Q良い施術者とはどんなタイプでしょうか？
A施術者も個性があります。ソフトな施術者もいれば厳しそうな施術者もみえます。全ての職業に言える事ですが、どんなキャラクターであれ「この人はこの仕事が好きなんだなあ」と感じられることが大事です。このような施術者ならこれまで書いてきたQ＆Aの問題を全てクリアしている場合が多いものです。「好きでやっている」ことを微塵も感じられない施術者なら次を探しましょう。
以下当院HP香肌文庫もお時間あれば読んで見て下さい。
第3回東洋医学と西洋医学
第20回中国鍼灸と日本鍼灸
第22回鍼灸ってクセになるの？
第35回鍼と灸どちらが効くの？
第39回鍼の本数と施術時間
第40回電気鍼って効くの？
第80回兆しと変化
鍼灸というものは現代思考の我々にとって摩訶不思議な医療です。こんな化学でも証明できないものが国家資格にまでなったというのは鍼灸をおいて他にはないでしょう。まさに理屈抜きに効果だけで出世した問答無用の医療です。どうか良い治療院と巡り合い、皆様の健康に鍼灸を大いに利用してください。
第108回香肌文庫 2015.2.1
