香肌文庫 第80回 兆しと変化
来院される患者さんに「慢性の症状は薄皮を剥がしていくかのように徐々に良くなっていきます。」と説明してきましたが、少し訂正をしたいと思います。慢性の症状はある時を境に急に好転すると言った方が正しいのです。 もちろんその境目に至るには治療や養生を経てのことです。この境目となる変化点を物理学用語でシンギュラーポイントと言います。シンギュラーポイントはよく水の沸点で例えられます。
99℃まで見た目には大きな変化のない湯水が100℃になったとたんボコボコと沸騰して様相を急変します。
病気もこのように停滞しているかのような回復期を経て、ある時急に良くなった実感が持てます。
また、治癒とは反対に病気が発症するのもシンギュラーポイントに達した時です。ギックリ腰で例えますと、過労や冷えが腰に少しずつ無症状に蓄積され変化点に達すると、靴下を履いたり洗顔で腰を曲げたのをきっかけに激痛となります。
我々の日常でも、地道な努力は段々と評価されていくのではなく、シンギュラーポイントに達すれば急に世間から認められます。
そこで問題なのは、治療や努力をこのまま続けていけば本当に良い変化点に達することができるのか?ということですが、これは最初に現われる兆しで判断できます。
治るのに数年を要する病でも、その治療が合っているのなら最初の段階で体に良い変化を感じます。
また、初診の時にかかっていたBGMが自分の大好きな曲だったとか、診察券が自分のラッキー色だったとかなど一見他愛もないことでも大切にして下さい。そして良い兆しを感じれば変化点まで継続すればよいのです。
大きな仕事を成功させる人は、やる前から良い結果しかイメージ出来ないそうです。私の仲間でも店を開くにあたって、交通量は如何?地域人口は如何?年齢層は?…と緻密に調べて決断する人より、なんとなく「この場所いい感じ!」で決断した人の方が不思議と良い結果となっています。
太古では何かを決める際には亀の甲羅や動物の骨を焼き、その割れ方で吉凶を判断したそうですが、未知の事は理屈で考えるよりも兆しに頼った方が正解の場合が多いのかもしれません。
第80回香肌文庫 2012.10.1