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香肌文庫 第161回 正論と薬

松阪の商店街が問題になっています。マスコミにも取り上げられた「正論おじさん」のニュースです。
毎日商店街にやって来ては店先の歩道にはみ出して陳列している商品や看板を見つけ、「通行の妨げになる」「道交法違反だから片付けろ」と店主を厳しく叱りつけ、場合によっては自分で勝手に移動してしまう有様なのです。少しのはみ出しも容赦しません。それで商店街の多くの店は大変困っているのですが、なぜ困ってしまうのかと言えば、おじさんの言うことが正論だからなのです…。

私は正論と聞くと、薬を思い出します。以前「薬について」でも書いたのですが、子供が立派に育つのは優しさを持って厳しく育てるからです。もし、優しさのない厳しさだけで育てればビクビクと萎縮した子供になってしまうか、気の強い子供なら他へ矛先を向けてしまいます。病院から処方される化学的に作られた薬というのもこれと同じで、厳しさのみを抽出して作られているため、症状を抑える効果は非常にシャープなのですが、結果的には病を深部へ追い込んだり、他の組織に転移させてしまうのです。一方、漢方など自然の生薬というものは、解熱と温める効能、下痢にも便秘にも効く効能など相反する成分を含んでいるため、体に負担がかかりません。
同じ東洋医学である鍼灸治療も、陰性のツボと陽性のツボをバランス良く使うことで体を整えていきます。
相反したもの同士が打ち消し合うことなく共存している姿こそ生命であり、自然の姿なのです。
タバコの害などを見ても、「タバコは絶対悪」「副流煙撲滅!」と大騒ぎをする人たちのおかげ(?)で、今ではどこへ行っても分煙管理されていますが、皮肉にも肺ガンの数は分煙のなかった時代よりも増加しているのです。一部の研究では、多少の発がん性物質は却って体に抗ガン作用をもたらすことが分かっています。

サポタージュ・マニュアルという第二次世界大戦時にアメリカの諜報機関が作った文書が公開されたのですが、これは何のマニュアルかといえば、敵の組織を衰弱させる方法が書いてあるのです。その内容を見てみると、敵の組織を衰弱させるには、執拗なまでに正論を唱える人物を送り込み、会議、管理、規則を徹底させれば必ずその組織は駄目になるとしているのです。

正論は取り扱い注意です。正論は悪だけでなく善をも破壊する抗生物質であり、全てを漂白する塩素消毒のようなものです。もちろん正論がないと秩序は乱れてしまいますが、そこに少しの矛盾が入ることで、はじめて人に優しい薬になるのではないかと私は思います。

第161回香肌文庫 2019.7.1

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