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香肌文庫 第76回 薬について

子供を叱る場合、愛情を持って厳しく叱ります。そうすれば子供には良い薬となり無害です。もし愛情の無い厳しさだけで接した場合、すぐにおとなしくはなりますが、ビクビクと萎縮した子供になってしまうか、気の強い子なら他へ矛先を向けかねません。
今回は薬の話ですが、私たちが服用している化学的に作られた薬品は、大抵が自然界に存在している動植物などから特定の症状に効果がある成分を抽出もしくは化学的に合成して作られています。
それなら「薬ってそんなに害が無いのでは?」と思われるかも知れません。私は薬の注意点を挙げるとしたら成分の害というより、もっと別の問題があると思います。
冒頭で子供を叱る話をしましたが、化学薬品はまさに愛情と厳しさどちらか一方の欠けたものと言えます。
分かりやすい例を挙げますと、さつま芋の実にはご存知のように胸焼けを起こす成分がありますが、皮も一緒に食べることによりそれが防げます。皮には消化酵素があるからです。
同じように天然の薬草には解熱と温める効能、下痢にも便秘にも使える効能など相反する作用を併せ持っているものが多く存在しています。
このように天然の物を丸ごと取り入れるということは、相反する成分を同時に取れるため栄養や効能が一方に偏り過ぎず、体に負担がかかりません。
鍼灸でも「春夏(陽の季節)は一陰を致し、秋冬(陰の季節)は一陽を致せ」という原則を二千年前の先輩が教えてくれています。これは一方だけに偏った治療をするなという戒めです。

これに対して化学薬品は一方の成分のみから作られているため、症状を抑える効果は非常にシャープですが、愛情なく叱りつけた子供のようになることがあります。
例えば高熱を急激に下げた後で脳症になったり、頭痛が治まった後で胃痛が起きたり、発疹を抑えた後に下痢が起きたりなど多く見られます。
このように病が深い所へ逃げ込んでしまったり、他の臓へ矛先を向けてしまうことを伝変と言います。
伝変とは東洋医学独自の診断で西洋医学にはない考えです。
しかしそうかといって、天然の薬草のように相反する効能を同時に含んだ物は人工では出来ないそうです。
なぜそれが不可能かというと、それは「生命を作れ」と言っているようなものだからです。鍼灸医学の古典には「生命は火の働きを持つ水」と説明しています。矛盾したもの同志が打ち消し合うことなく共存している姿こそ生命力であり自然の力でしか作れないものです。

今回は薬の悪口になってしまいましたが、我々鍼灸師には皆様が服用している薬を止めさせることも指示する
権限もありません。しかし、症状を抑えることだけが治癒ではなく、またそれが返って良くない場合もあるということはどうしても伝えておきたいと思い書きました。
現代人は鍼灸や漢方が主流だった時代に比べると、体の抵抗力も弱く社会状況も大きく違います。大事な会議を控えていたり、旅先で不調になってしまった時などは症状を即効に抑える薬も仕方ないと思います。
どうしても薬の力を頼らざるを得ない人もいますし、また飲み続けている薬を急に止めると危険な場合もあります。薬が良くないと思っても、決して自己判断せずに医師の指示に従って下さいますようお願いいたします。

第76回香肌文庫 2012.6.1

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