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香肌文庫 第107回 陰遁と陽遁

「今飢えている人は幸いである。あなたがたは満たされる」
「今泣いている人々は幸いである。あなたがたは笑うようになる」
「今満腹している人々、あなたがたは不幸である。あなたがたは飢えるようになる」
「今笑っている人々は不幸である、あなたがたは悲しみ泣くようになる」

新年早々改宗したわけではありませんが、これは聖書の中の言葉です。
以前「極まれば変ずる」という稿を書きましたが、西洋も東洋も真理は同じです。
東洋では、満たされない状態から満たされた状態へ向かう幅を陽遁(ようとん)と言い、反対に満たされた状態から満たされない状態へ向かう幅を陰遁(いんとん)と言います。
日本も発展途上の陽遁期は貧しくても夢希望がありました。豊かになり過ぎた今では生活水準が下がることにビクビクしています。ちょっとした金持ちより、ちょっとした貧乏の方がいいかもしれません。
話は変わりますが、新月の日に願い事を書くと叶うという魔法があります。新月とは月が全部欠けて真っ暗な状態です。月が満ちてくる始まりでもあります。つまり月の陽遁初日にあたる新月に願うことにより、願いが徐々に満たされて形と成っていくのです。満月に願っても次の日から欠けていってしまいます。
月だけでなく、太陽に対しても似たような習慣があります。太陽が最も弱まる冬至です。古代では東洋でも西洋でも冬至の日に太陽の復活を祝う祭りが行われていました。一説によるとクリスマスも太陽の復活祭が元だったと言われています。反対の夏至に日に祭りを行う習慣は聞いたことがありません。
考えてみれば我々はどん底に陥った時こそ祝うべきかもしれません。満福なんて欠けるのを待つだけです。
タレントをスカウトするのも文句の付けどころのない美男美女はあまり選ばれていません。例え選ばれたとしても人気が続きません。「この子そんなに可愛いか…?」くらいの子が当たっています。TVに出ることで顔が洗練され、どんどん綺麗になっていきます。
会社で人を登用するのも完璧の人は避けるべきです。頂上より登り、これから伸びる者を選ぶことです。

鍼灸では陽遁期を少陽・太陽・陽明、陰遁期を少陰・太陰・厥陰と一年を六つに区切り、それぞれの期間に起こりやすい病、季節に応じた刺入の深さなどを考える基準にします。私達は意識することはできませんが、体の「気」の流れは季節に応じて浮いたり沈んだりしています。

さて私達は新年を迎えましたが、地球は既に先月19日の甲子(きのえね)から陽遁期に入っています。今年の6月17日の甲子まで陽が増して行く期間です。一年の結果は前半の過ごし方次第と言えます。どうぞ良い一年にして下さい。

第107回香肌文庫 2015.1.1

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