香肌文庫 第96回 立春
だいぶ前の話になりますが、お世話になった先生が大相撲の初場所初日に、二人しかいない横綱が揃って負けるのを見て、「日本は波乱の年になるな・・・」とこぼしました。相撲という国技の初場所で横綱が揃ってこける姿から何かを感じたのでしょう。実際どんな年になったのか忘れてしまいましたが、「兆し」というものに敏感な人だなと思いました。
私たちも初夢や初詣のおみくじなど、年の初めにこれからの一年間を予測する風習があります。それでも多くの人は単なる占い程度にしか考えていませんが、実は始まりの日には未来の兆しが本当に表われやすいのです。始まりの日と言っても三つあります。一つ目は人間の作った正月、元旦です。二つ目は節分の翌日二月四日の立春です。これは地上の大気の変化点とされています。地球の正月です。三つ目は天空の正月である冬至です。例えれば、受胎するのが冬至でオギャーと生まれるのが立春、午前零時が冬至で日の出が立春と考えれば良いかと思います。
そしてこの中でも地球の正月に当たる立春が私たち地上の生物に最も影響するとされています。実際に旧暦の時代には立春を一月一日としていました。気学や推命など古くからある占いもこの日を生まれた年の境とします。鍼灸の古典にも「其の至るを求むるや、始春に帰す」とあります。始春とは立春のことであり、一年の天候状態を予測するのは立春の日を基準にするという意味です。
この立春から始まる二月を寅月と言います。一日でも明け方に当たる時間を寅の刻と呼びます。そしてこの寅の刻に見る意味深な夢は何かの暗示と言われています。
先日私が実際に見た夢ですが、和子さん(仮名)という見知らぬ中年女性が夢に現われ、腕が痛いと訴えていました。すると実際その日に腕が痛いので診てほしいという中年女性が来院されました。初診表に和子と書かれたのを見た時は唖然としてしまいました。こんなことは滅多にありませんが、朝方ふと思い出した利用者さんが久しぶりに来院するということはよくあります。「香肌治療院に行こう」という念が飛んでくるのかもしれません。
鍼灸治療は患者さんの脈を頼りに治療を進めていくのですが、この脈診について古典には「寸口(手首)は五臓六腑の気の「終始」するところ故に死生吉凶が分かる」とあります。寸口は立春と同じく終始点であると言っています。鍼灸治療が対象にする十二の経絡にはそれぞれ十二支が配当されているのですが、この脈診部位の寸口を通る経絡にも寅が配当されているのは驚愕であり、寅肌いや鳥肌が立ちます。東洋医学は完璧なまでに自然の符号と一致しているのです。
今月は立春を迎えますが、皆様にはどんな兆しが表れるのでしょうか?
第96回香肌文庫 2014.2.1