香肌文庫 第67回 少>多
鍼灸の臨床を始めた頃は多い本数の鍼を打っていました。「念のためこのツボにも刺そう」「もっとたくさん刺した方が効くだろう」数打てば当たるではないですが、今思えば未熟で無駄なことをしていました。効果もいまいちでしたが、悪化させてしまうということも不思議とありませんでした。経験を積んで少し分かってくると鍼の本数も減り、使うツボも極わずかになりました。刺す深さも非常に浅くなりました。効果もはっきりと確認できるようになりましたが、間違った場合の反応もはっきりと出ます。
数が少ない方がなぜか強く反応するのです。
少ないと強く反応するという現象は日常でも見られます。例えば季節の変化も立秋に入ると一瞬涼しい日が続きますが、これは暑い八月に僅かの秋季が入るためです。反対に九月の残暑は夏季が残り僅かになったために強く出ます。初春の大雪もそうです。臨終間近の人が一瞬顔色がよくなり、元気になるのと同じ現象です。
最も難解な書物とされる中国の古典『易経』にも、含有率の少ないものが主となる理論が書かれています。
『易経』は宇宙の法則を説いていると言われているだけに大変興味深く思えます。
健康に良いからとあれもこれもと手を出すよりは、自分に合った何かを一つ実践する方が楽に変化を起こせます。また、何かを変えたい、自分を変えたいという場合も、あれもこれもと欲張れば変化は起きません。何かを少しが良いのです。
それから利用者の皆様、今後治療時間が短くなったり、鍼の本数が減っても心配しないで下さい。手抜きではありませんから!
第67回香肌文庫 2011.9.1