第224回 誤治について
誤薬ほど強い反応は出ないにしろ、鍼灸でも誤った施術をすると誤治反応が出ます。正しい施術が行われた後は手足が温かくなって頭が冷め、筋緊張が緩むのですが、刺激が強過ぎたり余分な施術を行ってしまうと、手足が冷たくなって汗ばんだり、顔がのぼせて耳が赤くなり、筋緊張が起こったりします。また、診断を誤り、病んでいない所を施術してしまうと、逆にそれ特有の症状が出てしまいます。
例えば、肺が病んでいないのに肺のツボへお灸をすれば、咳や鼻水、皮膚の痒み(皮膚は肺が主る)などを発症するのです。
このような現象は鍼灸以外でも起こり得ます。例えば放射線はガン細胞を消しますが、健康な人が浴びると発ガンの恐れが出てきます。また、塩分は腎臓病には良くありませんが、健康人が塩分を控え過ぎると腎臓を悪くします。他にも不必要なダイエットによるリバウンド肥満、マッサージ常連にみられる筋の硬直化があります。これらから分かることは、病んでいない所へ予防や強化の目的だけで施術や投薬をしたり、何かを減らしてしまうと却ってその病気になってしまうということです。
最近「足の三里」というツボがテレビで取り沙汰され、このツボを刺激することで体が丈夫になるような紹介がされています。しかし実際の臨床ではそれほど頻繁に使用するツボではありません。松尾芭蕉が足の三里にお灸を据えて旅をした日記があることから健脚になるツボと勘違いされてもいます。足の三里は基本的には胃のツボです。それも胃液を濃くするツボです。なので胃酸過多や逆流性食道炎の人がお灸すれば誤治反応が出ます。足の三里は一部の適応者を除き、健康のために毎日お灸するようなツボではありません。健康人がすれば胃酸過多になってしまう恐れがあるのです。
鍼灸の古典には「不足を損じて有余を益すなかれ」と誤治の戒めが書かれています。
「足りない所からさらに取り立ててはいけない、余っている所がさらに増すようなことをしてはいけない…」新しい大臣にも分かってほしいですね。
第224回香肌文庫 2024.10.1