第223回 脳と心
その道を極めた人に言わせると、脳というものは使い過ぎると感性を殺してしまう厄介者で、知識、経験、型が邪魔をし、感性を脅かすというのです。現代医療では心や感情は脳が成すものと考えます。そのためうつ病の治療にはセロトニンやドパミンなど脳内分泌物を促す薬を与えます。しかし新薬が増え続けるのと比例してうつ病人口も増える一方です。
私はうつ病を脳の病と考えている限り治すことはできないと思います。うつ病は脳の病ではありません。
心の病です。以前も書きましたが働き(無形)が形を作ります。
心(感情)は無形、脳(思考)は有形、出来上がった作品を見れば作者の心が分かるように心が作品を生みます。
今の精神医療は脳→心と考えるため脳内分泌物を促す薬を飲ませて心を落ち着かせようします。カウセリングにしても多くが思考的アドバイスです。
しかしどれだけ適格なアドバイスを受けて納得し、脳(思考)が修正できても、心(感情)は修正できません。
脳(思考)は陰で有形なので手を加えられても、心(感情)は陽で無形のため手を加えられません。実は心(感情)を変えるのは感動の上書きしかないのです。
新しい恋人ができる、環境を変える、楽しい事がある、そこで新たな心地よい感動を持てば上書きされます。実際にうつ病が治った人の話を聞くと、何らかの形で感動の上書きがされています。
鍼灸がうつ病に効果的な理由は「脳」を無視しているからと言えます。古代に成立した東洋医学でも脳や髄の認識はしていました。そもそも脳は東洋医学の用語です。
しかし東洋医学では心は脳とは別の所にあるとみています。心(感情)の出所は五臓にあるとしています。特に神気(意志)が宿るとされる心臓を重視しています。
臓器移植を受けた人は半数以上の確率で性格の変化があったというデータがあります。それもその多くが心臓移植なのです。脳移植ではこのような報告を聞いたことがありません。
繰り返しますが、うつ病は脳ではなく心の病です。心を変化させるのは良い感情の上書きしかありません。
治療に際してもベクトルを心→脳としない限り難しいのです。
第223回香肌文庫 2024.9.1