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第221回 移精変気

二千年前に書かれた東洋医学の聖典『素問』は八十一の篇から成り、黄帝と侍医の問答形式になっています。
今回はその中から「移精変気論篇」を簡略して紹介します。

黄帝:「昔は病気になると移精変気(呪術的な治療)という非合理な方法でよく治った。現在は鍼灸や漢方など合理的な医療が行われるようになったが、かえって治らないことがある。なぜだ?」
侍医:「昔の人は無欲でストレスがなく、心身の抵抗力が充実していました。現代人はストレスで精神が病んでいるせいで肉体の病も治り難くなっているのです。」

驚嘆すべきことは、この内容が二千年前に書かれたということと、既に呪術的治療を非合理なものとして一掃していることです。ちなみに日本で書かれた医学書は江戸時代になってもまだ生霊や狐の霊による症状の記載があります。
呪術的治療である移精変気とは、名前のごとく精神エネルギーをまったく別の所へ移してしまうというものです。古代においては暗示や祈祷が行われましたが、現在行われている偽薬やカウセリングなども移精変気と言えるのではないでしょうか。また、友達と喋っていたら痛みが和らいだ、病の原因が分かったとたん安心して好転する、落ち込んでいたが他人の不幸を見て我に戻った、新しい恋人によって失恋の傷が癒えた、これらも移精変気ですね。

紹介した「移精変気論篇」は古代の呪術的治療を否定しているのではなく、むしろそれを回顧し、合理的治療が身体偏重の技術主義に陥り、精神を置き去りにしてしまったことを嘆いています。
まったく現代医学の状況と同じではありませんか。「心身一如」という東洋医学の肝心要が二千年前にはもう崩れかけていたのです。「移精変気論篇」は最後を次のように結びます。

黄帝:「治療の要点は何であるか?」
侍医:「それは唯一つです。窓と戸を閉め、患者のそばに座り、ゆっくり話を聞いてあげることです。」
移精変気こそ医療の原点なのです。


第221回香肌文庫 2024.7.1

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