香肌文庫 第132回 先天の気と後天の気
来院された方に「どのツボに鍼を刺しましょうか?」と聞けば、怒られるかもしれません。しかし、実際どのツボに鍼をするのかは患者さんが教えてくれているのです。「えっ?」と思われるかもしれませんが、有効なツボを指で触ると脈が変化したり、筋肉の緊張が緩んだりします。本人が無意識でも体は「そのツボに鍼をしてくれよ」と要求しているのです。私達は頭で分からなくても体が教えてくれることがたくさんあります。
例えば毒グモや毒キノコの知識がなくても、その派手な模様や気味悪い姿を見ただけで危険を感じてゾッとします。ちなみに、クモに刺されたり毒キノコを食べても平気な獣の目には、あの模様や姿が毒々しくは映らないそうです。
東洋医学では、人間は「先天の気」と「後天の気」から成り立っていると考えます。先天の気とは生まれながらに備わっている力、後天の気とは生まれてから飲食や呼吸、学習によって得られる力とされています。先に述べた無意識下でのツボ反応や危険を感じてゾッとする反応も先天の気の仕業と言えるでしょう。
脳科学でも、我々の行動の内で意識して行っている事はたった1割程度で、あとの9割は無意識下で行われていると説明しています。ですから考えて分からない事も無意識下にある先天の気は分かっているかもしれません。
人によっては考えても分からない事を知る方法として占いに頼る人もいます。中でも周易という筮竹を使った占いがあるのですが、これがなぜか?当たるのです。周易は学問的体系としては素晴らしいのですが、その占法は論理性がなく、おみくじのように偶然出たものから判断するため、他の占いに比べどこか呪術的であり、そのため信用できないと言う人もいます。西洋のタロットとよく似ています。
しかし私は「無になって」答えを導く周易やタロットこそ「先天の気に通じる占法」ではないかと思うのです。
専門的な余談になりますが、周易以外の占いが生物誕生後の世界を表す「後天定位盤」というものを使うのに対し、周易のみは生物誕生前の世界を表す「先天定位盤」と言われるものを使うのです。つまり周易は人知を超えた所から答えを導く手段なのです。
古代の政治では何かを決める際、鹿の骨や亀の甲羅を焼いたときの割れ方で判断する太占に頼ったそうですが、人間のちっぽけな知識で決めるよりも正しい答えが得られたのではないでしょうか。偶然とは「たまたま」ではなく「然るべくして遇う」という意味で、天からの解答「神意」です。
我々は非科学的なものや論理的に説明できないものは、「原始的」「まやかし」だと一蹴してしまいます。しかし本当はどちらが原始的なのか、どちらが進化したものなのか分かりません。例えば人間は高等動物でミミズは原始的な下等動物としますが、よくも偉そうな事が言えるものです。口と肛門程度の器官だけで外界の刺激をキャッチし、消化・吸収・排泄から生殖まで行うミミズの方がよほどハイテクですね。私は人間よりミミズの方が高等動物だと思います。
専門職人の技術なども基本的な型を続けていくうちに、それを超えた無型の感性や直感力が生まれてきます。師匠が長年修行した弟子に対してよく言われる「ここから先は言葉では教えられない」という部分です。
形は無形へ、論理は非論理へと進化し、後天の気は先天の気に進化するのです。
私たちに備わっている先天の気は遠い祖先からの記憶かもしれません。祖先が学習して得た後天の気は、私たちに先天の気となって備わります。そして私たちの学習が子孫の先天の気になるのです。つづく
第132回香肌文庫 2017.2.1
例えば毒グモや毒キノコの知識がなくても、その派手な模様や気味悪い姿を見ただけで危険を感じてゾッとします。ちなみに、クモに刺されたり毒キノコを食べても平気な獣の目には、あの模様や姿が毒々しくは映らないそうです。
東洋医学では、人間は「先天の気」と「後天の気」から成り立っていると考えます。先天の気とは生まれながらに備わっている力、後天の気とは生まれてから飲食や呼吸、学習によって得られる力とされています。先に述べた無意識下でのツボ反応や危険を感じてゾッとする反応も先天の気の仕業と言えるでしょう。
脳科学でも、我々の行動の内で意識して行っている事はたった1割程度で、あとの9割は無意識下で行われていると説明しています。ですから考えて分からない事も無意識下にある先天の気は分かっているかもしれません。
人によっては考えても分からない事を知る方法として占いに頼る人もいます。中でも周易という筮竹を使った占いがあるのですが、これがなぜか?当たるのです。周易は学問的体系としては素晴らしいのですが、その占法は論理性がなく、おみくじのように偶然出たものから判断するため、他の占いに比べどこか呪術的であり、そのため信用できないと言う人もいます。西洋のタロットとよく似ています。
しかし私は「無になって」答えを導く周易やタロットこそ「先天の気に通じる占法」ではないかと思うのです。
専門的な余談になりますが、周易以外の占いが生物誕生後の世界を表す「後天定位盤」というものを使うのに対し、周易のみは生物誕生前の世界を表す「先天定位盤」と言われるものを使うのです。つまり周易は人知を超えた所から答えを導く手段なのです。
古代の政治では何かを決める際、鹿の骨や亀の甲羅を焼いたときの割れ方で判断する太占に頼ったそうですが、人間のちっぽけな知識で決めるよりも正しい答えが得られたのではないでしょうか。偶然とは「たまたま」ではなく「然るべくして遇う」という意味で、天からの解答「神意」です。
我々は非科学的なものや論理的に説明できないものは、「原始的」「まやかし」だと一蹴してしまいます。しかし本当はどちらが原始的なのか、どちらが進化したものなのか分かりません。例えば人間は高等動物でミミズは原始的な下等動物としますが、よくも偉そうな事が言えるものです。口と肛門程度の器官だけで外界の刺激をキャッチし、消化・吸収・排泄から生殖まで行うミミズの方がよほどハイテクですね。私は人間よりミミズの方が高等動物だと思います。
専門職人の技術なども基本的な型を続けていくうちに、それを超えた無型の感性や直感力が生まれてきます。師匠が長年修行した弟子に対してよく言われる「ここから先は言葉では教えられない」という部分です。
形は無形へ、論理は非論理へと進化し、後天の気は先天の気に進化するのです。
私たちに備わっている先天の気は遠い祖先からの記憶かもしれません。祖先が学習して得た後天の気は、私たちに先天の気となって備わります。そして私たちの学習が子孫の先天の気になるのです。つづく
第132回香肌文庫 2017.2.1