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香肌文庫 第130回 リズムは力

一昔前、沢田健という伝説の鍼灸名人がいました。沢田先生は神仏に対する信仰心が厚く、特に「法華経」を信奉されていたそうです。「何か鍼灸学の肥やしになるのでは?」私も名人にあやかろうと法華経を読んでみたのでした。そして現代語訳を中途半端に読み終えた私の感想は、「・・・?」何と法華経には法華経のことが一切書かれていなかったのです。
法華経は数ある仏典の中での最高峰とされ、僧侶に限らず宮沢賢治、石原慎太郎などの作家たちからも愛され、これを読むと多くの功徳を得ると断言する人も多いようです。
仏典(お経)と聞けば難解極まりないものと想像してしまいますが、「法華経」は難しいことは書かれておらず、お釈迦様と弟子たちの物語といった感じです。しかしその内容は、「法華経は素晴らしい教えである」「法華経だけが真理である」「法華経を他に薦めよ」等々、終始一貫して法華経を絶賛しているだけなのです。
「法華経とはこういう教えだ」ということはどこにも書いてありません。きっと文字には書かれていない深遠な教えを掴み取らないといけないのでしょうが、私にはその能力がないのか、また法華経は文学的にも優れるとされていることから、作家級の頭でないと味わえないのか、いずれにせよ私には鍼灸の肥やしどころか何も分かりませんでした。

長い間法華経のことは忘れていましたが、先日神社で神主が読み上げる祝詞を耳にし、ちょっと気づいたことがあります。祝詞とは「かけまくもかしこき…」と何かをお願いする時に読み上げる神への賛辞なのですが、これは法華経と同じではありませんか。法華経も神道の祝詞と同じく、言葉では到底説明できない偉大な何かを畏れ絶賛しているのです。それも祝詞と同様リズミカルに。
仏教の誕生以前に起こった古代バラモン教にも、神々を褒め称える事によって御利益を授かるという考えがありました。その聖典である「リグヴェーダ」はまさに宇宙や神に対する賛歌集です。もしかしたら法華経もバラモン教の影響を受けているのかもしれません。そう言えばキリストの賛美歌も同じですね。古今東西いずれも、目に見えず説明することも出来ない神仏の偉大な力を受けるには、賛辞をただ読むのではなく、必ずそこにリズムを付けるのです。これぞ無を有にする秘法です。私たちがゆずや中島みゆきの応援歌を聞いて元気になるのも同じことかもしれません。

さて、そこで凡俗な私が気づいたことは、自分の願いや目標を詩文にし、毎日リズミカルに読経すれば叶いやすいのでは?ということです。私も他愛ない詩を作って実験してみたのですが、"気の流れが変わる"感じがしました。まんざらでもなさそうですよ。
飛鳥時代の万葉人も願いや恋心を歌にしましたが、これは万葉人がただ風流人というのではなく、やはりそこには呪術的な要素もあったと言われています。また、文章や音楽で同じリズムを繰り返すことを「韻を踏む」と言い、お経でも使われます。韻を踏むことは単に流暢になる、格調を上げるという効果だけでなく、作品自体に血が通う感じがしますよね。実際にヒットする曲や詩は上手に韻を踏んでいるものが多いのです。韻を踏むことは呪術要素があるに違いありません。脳科学でも同じフレーズの繰り返しは、脳が良い意味で覚醒することが分かっています。今年多くの人がかかってしまった韻の呪術は「前前前世」と「アッポ~ペン」でしょうか。
また新しい年を迎えます。叶えたい夢は詩にしてリズムに乗せましょう。リズムは力です♪
♪~給料上昇♪~残業縮小♪~上司ノ畜生!  良いお年を。

第130回香肌文庫 2016.12.1

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