香肌文庫 第116回 苦節は貞しくすべからず
中国の古典『易経』の中に「苦節は貞しくすべからず」とあります。訳すと「苦しい時は規律にこだわるな」という意味になるのですが、易経は道徳の規範とされる儒教の経典だけに興味深い一文です。これを「苦しい時は犯罪も仕方ない」まで飛躍させてはいけませんが、絶望的状況の時には常識や定説では救われないものです。
鍼灸治療でも生死に係わるような重篤な症状には、通常の治療ではタブーになっているような方法を施します。もちろん今の時代そんな重篤な人が鍼灸院に来ることはほとんどありませんが、入口と出口をひっくり返すような治療法を施すことにより一命を救うこともできるのです。
人生においてもどん底に陥った時は、自分自身のタブーを破ることが残された一つの回生法なのです。助けを求めるにしても嫌な所、絶対会いたくなかった人の所へ頼みに行く破目になりますが、それで良いのです。
世の中には付き合うと気分の悪くなるようなアクの強い人がいます。自分自身が幸せな時、景気の良い時にはこういう人と会うことは極力避けるべきですが、どん底に陥った人間を起死回生させることが出来るのは例外なくこういったアクの強い人です。気配り上手とか行儀の良い人にはこんな力はありません。
今回は易経の一文を紹介したのですが、二十年程前に易経を教えてくれた先生が、「最もパワーを秘めた物は大便である」と真顔で言っていました。さらに「もしこれを摂取することが可能ならすごい力となるだろう」と。入口と出口をひっくり返したこの考え、もしかしたら難病治薬をつくるヒントは大便にあるのでは…?
後の研究は現代医学にお任せします。
第116回香肌文庫 2015.10.1